通っていた講座の終了により、Aさんのいる大阪駅に行くことがほとんどなくなった。ときに『どうしてるかな?』と思うことはあっても、わざわざ確かめることはせず、仕事に、家の用事にと忙しくしている間に、Aさんの事は頭から消えていた。
講座終了から数ヶ月たったある日、同じ講座に通っていた知人からLINEが届く。
「あのおじさん、新聞(web版)に掲載されてますよ!」
そこに貼られていたリンクをクリックすると、見覚えのある顔がドンと出てきた。あのときおじさんは私に「取材を申し込んできたのは、あんたで3人目」と言ったのだった。それも真偽のほどを疑っていたのだが本当だったようだ。しかも全国紙に乗るとは・・。新聞記者と同じ人物に目をつけていたと思うと、なかなか誇らしい。
実は、Aさんを題材にした文章を書き、とあるところでささやかな賞をもらっていた。本来ならAさんにお礼を言いに行くべきだが、内容が内容なので原稿を見せるのが憚られたのと、私のことなどきっと忘れているだろうと、報告をしていない。すまない、Aさん。感謝してます。知らない怪しい人(失礼)に話しかけて取材を申し込むというあの経験は、私にとって結構大きなものだった。とても勇気が必要だったけど、普通に生活していては得られないものを得たような気がする。それと同時に面白話のネタになった。
しかしまた日々の忙しさに追われ、Aさんを思い出すことはなくなった。
(後編に続く)